「何もない」という魅力 【鹿児島市 B型事業所】

今回は、近年話題となっているインターネット美学のひとつ、
リミナルスペース(Liminal Space)についてご紹介します。
その前に、「そもそもインターネット美学とは何か?」と思う方もいるかもしれないので、簡単に補足しておきます。
インターネット美学(Internet Aesthetic)とは
ネット上で共有・拡散される、視覚的な雰囲気やミーム的な美意識の総称です。
代表的なものとして、
Vaporwave(ヴェイパーウェイヴ)
Backrooms(バックルームズ)
Dreamcore(ドリームコア)
などが挙げられます。
いずれも既存のイメージを再編集し、個人や世代の感情を圧縮して表現している点が共通しており、どこかノスタルジーを感じさせるデザインが特徴です。
さて、皆さんはこんな感覚を覚えたことはありませんか?
人気のない薄暗いデパートの一角。
不気味なのに、なぜか懐かしさを感じる空間。
タイル張りの空間が永遠に続く、迷路のような貸し切りプール。
見渡す限りの草原の中に、ぽつんと存在する用途不明の建物。
そうした「現実でありながら、現実から切り離されたような風景」に、言葉にしがたい魅力を感じたことはないでしょうか。
それこそが、今回のテーマである「リミナルスペース」の醍醐味です。
この美学が広く知られるようになったのは、2019年〜2021年頃です。
ただし、その起源をたどれば、概念そのものはもっと以前から存在していました。
転機となった2010年代後半、海外SNSを中心に
「weird empty places(奇妙に空っぽな場所)」
「nostalgic uncanny images(懐かしくも不気味なイメージ)」
といった投稿が密かに注目を集めます。
さらに2019年には、Reddit内の r/LiminalSpace が急成長し、
「懐かしいのに不安になる」
「夢で見たことがある気がする」
といった印象を与える画像が数多く投稿されました。
その後、2020年〜2021年にはTikTok、YouTube、Instagramなどで若者を中心に流行。
特に話題となった The Backrooms の存在が人気に拍車をかけ、2022年以降はゲーム、ホラー作品、都市伝説系YouTubeなどを通じて一般層にも認知が広がりました。
リミナルスペースには、以下のような特徴があります。
- 本来人がいるはずの場所に、誰もいない
深夜のショッピングモールや閉園後の遊園地など、本来は人の活動が前提となる場所に誰もいない。
空間だけが切り取られたような奇妙な違和感があります。
- 移動の途中にある場所
これはかなり重要な要素です。
そもそも「Liminal」には「境界」「移行」という意味があります。
そのため、廊下や階段のような「長く滞在する場所ではない場所」が題材として選ばれやすいのです。
- 時間感覚が曖昧
その場に立つと、今が何時なのかわからなくなる感覚に陥ります。
永遠に夕方のような風景。
あるいは深夜のような静けさ。
現実の時間軸から切り離され、まるで夢の中にいるような感覚を与えます。
- ノスタルジーを刺激する
リミナルスペースには多種多様なイメージがありますが、その多くは2000年代前半以前の空気感をまとっています。
古いファミレス、キッズスペース、昔のゲームセンターなど。
それらは見る人に「行ったことがないのに知っている気がする」という不思議な感覚を生み出します。
- 人工的すぎる照明
代表的なのは蛍光灯です。
異様に白かったり、逆にわずかに暗かったりする不自然な光が、その空間から生活感を奪い、不気味さを増幅させます。
- 意味の分からない空間構造
行き止まり。
先の見えない通路。
無駄に広い部屋。
窓も出口もない空間。
冒頭で触れた The Backrooms は、まさにこの特徴を象徴しています。
設計者の意図が読み取れない空間は、強い不安や恐怖を生み出します。
- 音が想像される静寂
冷蔵庫の駆動音。
壁に反響する足音。
水面に落ちる水滴の音。
静止画を見ているだけなのに、頭の中で音が再生される。
存在しないはずの環境音を、脳が無意識に補完してしまうのも特徴のひとつです。
以上が、リミナルスペースの主な特徴です。
この概念は時代とともに解釈が変化していくため、ここで挙げた以外にもさまざまな要素があるでしょう。
要するに、リミナルスペースの本質とは
「日常空間が、日常として機能していない状態」
にあると言えます。
ホテルなのに宿泊客がいない。
学校なのに授業がない。
ショッピングモールなのに営業していない。
役割を失った空間は、まるで夢の残骸のように私たちへ語りかけてきます。
2020年の大規模なパンデミックを経験した私たちにとって、かつての「静けさ」は新たなノスタルジーとして蘇りました。
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