忘れ去られた過去の未来【鹿児島市 B型事業所】

忘れ去られた空虚な未来、
ノスタルジーと夢の狭間でかつての資本主義や大衆文化に意義を唱えるインターネット美学が存在します。
それが、「ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)」────
2010年代初頭に姿を現した、Web上のコミュニティから生まれた音楽ジャンルです。

このジャンルは、主に音楽的な面とデザイン的側面に分けられますが、
今回はビジュアル美学にフォーカスを当てて解説していきましょう。

1.時代の断片を切り貼りする「レトロ・フューチャー」
ヴェイパーウェイヴの核にあるのは、1980〜90年代の商業ビジュアルです。
例として、楽曲のMVや広告デザインの中に“初期のMac風UI”が要素として取り入れられることがあります。
あの直線的で素朴なインターフェースは、かつて「誰もがコンピュータを使える未来」の象徴でした。
しかし、現代においては洗練どころかややチープに感じるといった、いわゆる「ギャップ」の様な現象が起き、
それこそが“未完成だった未来像”というヴェイパーウェイヴ本来の特性と上手くかみ合う要素になりました。
完成された現在ではなく、期待に満ちたプロトタイプのような過去に価値を見出しているというわけです。
その他にも、日本のバブル期広告やショッピングモールの内装といった、かつて“未来の象徴”であったはずのものが
今では過去の遺物として扱われている。いわば、「未来のつもりだった過去」がズレの美学として再発掘されているのです。

2.消費社会へのアイロニー
ヴェイパーウェイヴは、資本主義の広告や企業ブランディングを素材にします。一例を見ていきましょう。
<ロゴの再配置>
・企業ロゴは本来、明確な意味とブランド戦略を背負っています。
 しかしヴェイパーウェイヴにおいて、それらは文脈から完全に切り離された、ただのグラフィック要素として並べられることがあります。
 すると、かつて強い意味を持っていた記号が、急に空っぽに見えてくる。その“意味の抜け殻感”が独特の違和感を生んでいるのです。

<無意味にループする商業映像>
・本来は商品の魅力を伝えるための映像が、ただ永遠に繰り返されるだけになると、目的を失った“運動”になります。
 動いているのに前進していない。これは消費社会のサイクルそのものを抽象化したようにも見えます。

<過剰に滑らかな3Dオブジェクト>
・90年代のCGは「滑らかであること」が未来的価値でしたが、現代の視点では逆に不自然さが際立つビジュアルをしています。
 ヴェイパーウェイヴはその“過剰な理想の滑らかさ”を皮肉に強調し、リアルと人工の境界を曖昧にします。

これらに共通する事は、80-90年代における消費文化やデジタル技術に対しての、郷愁と風刺を込めた創作であるという点です。
ですが、全てに明確な批判の意思があるわけではなく、大抵は「ぼんやりとした違和感」を与える為のスパイスとして作品に織り込まれています。

3.カラーパレットと光の質感
ヴェイパーウェイヴの配色は、かなり独特で特徴的な色合いをしています。
ネオンピンクやシアン、パープルといった色はどこか人工的でかつての「未来感」を誇張したものになっています。
特に夕焼け風のグラデーションは当時の企業広告やリゾートCMを思わせ、その時代の「豊かさ」や「未来の快適さ」を象徴していました。
デジタル的な発光表現も同様で、光源が現実に存在するかどうかはさほど重要ではありません。
むしろ「光っていること」自体が未来性の“記号”として扱われています。
その結果、画面全体が現実の物理法則から少し浮いたような感覚になるのです。

4.タイポグラフィ~意味より雰囲気~
文字の扱いもかなり独特です。
意外に思われるかもしれませんが、海外で創作された作品の中には、日本語(特にカタカナや漢字)の使用が数多く見られます。
実を言うと日本語は本来の意味として読ませるためではなく「異国感」と「80年代のグローバル資本主義」を象徴する記号として使われています。
特にカタカナや漢字は、西洋圏の制作者にとって「未来的で洗練された異文化」の象徴でした。
そのため、意味が通じるかどうかというよりも、視覚的なインパクトが重視されます。結果として、読めそうで読めないテキストが、独特の距離感を生みます。
また、フォントの不統一も意図的です。通常のデザインでは統一感が求められますが、ヴェイパーウェイヴではむしろバラバラであることが重要になります。
異なる文脈の断片を無理やり同居させることで、コラージュ的な世界観を強調しているのです。

5.3Dオブジェクトとクラシック彫刻
頻出するモチーフとして、ギリシャ彫刻や低ポリゴンの3Dオブジェクト、ワイヤーフレームの地形などが挙げられます。
一つの空間に古典(彫刻)と初期デジタル(荒い3D)を並べることで、時間軸を折り曲げ、その対比を違和感として表現しています。
ワイヤーフレームの地形は、まるで完成前の世界のような印象を与えます。まだテクスチャが貼られていない、骨組みだけの空間。
それは「これから構築されるはずだった未来」のメタファーのようにも思えます。

6.グリッチと劣化の美学
ヴェイパーウェイヴでは「壊れかけ」も重要な要素です。
VHSノイズやピクセルの崩れは、単なる劣化の表現ではなく「時間の存在証明」です。
完璧なデジタルでは時間は感じにくいですが、壊れかけの映像には過去が染みついています。
ヴェイパーウェイヴではその痕跡を積極的に利用しています。
色ズレもまた同様に、正確さよりも違和感を優先します。
ズレていることで、逆に「これは何かがおかしい」と意識させる。その違和感が作品への入口になります。
普通のデザインなら排除される要素を、あえて前面に押し出す。
これは「完璧なデジタルへの反動」とも言えるかもしれませんね。

7.空間設計~無人の場所~
最後の特徴として「人がいないこと」が挙げられます。
空のモールや誰もいないプール、静止した都市など。まるで時間が止まったテーマパークのような、奇妙な静けさがあります。
これは、消費社会の終わりの後を覗いているかのような、そんな想像を掻き立てます。

8.デザイン思想としてのまとめ
さて、まとめに入りましょう。
ヴェイパーウェイヴは次の要素の組み合わせです。
①…ノスタルジー(過去)
②…未来幻想(当時の理想)
③…消費文化(商業デザイン)
④…崩壊・劣化(時間の経過)
これらを混ぜることで、「失われた未来」を視覚化するジャンルになっています。

一言で表すのであれば、ヴェイパーウェイヴとは、
「かつて約束された未来の残響を、広告とノイズで再構築したデザイン」です。
80-90年代を生きた人たちにとって、新たなテクノロジーや発展していく世界はまさに“約束された未来”だったのかもしれません。
ですが実際にはその約束が果たされることはなく、未完のまま緩やかに形を変えていきました。
それは希望が閉ざされたわけではなく、時代と共に夢から覚めていくようなものなのかもしれませんね。

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